🌍地学①:固体地球としての地球の概観①
~重力・地震波から探る地球の内側~
🧭単元の概要
この単元では、地球がどんな形をしていて、その中身がどうなっているのかを探っていきます。地球のような「固体惑星」は、見た目ではわからない内部の構造を、重力や地震波、磁場の観測などから推測する必要があります。
🌀1. 地球の形と重力
●地球は完全な球ではない?
地球は一見、丸い球のように見えますが、実は赤道方向にふくらんだ回転楕円体(扁平球)です。これは地球の自転によって生じる遠心力が原因です。
地点 | 半径 |
---|---|
赤道 | 約6,378 km |
極 | 約6,357 km |
赤道と極で半径が約21kmも違います!
●ジオイドとは?
海面を平均化して地球全体をおおったと仮定した仮想の面をジオイドといいます。これは「真の地球の形」とも呼ばれます。山や谷を考慮して重力の等しい面を描いたものです。
→地学基礎で学習した「地球楕円体」は、ジオイドの形に最も近い回転楕円体となります。
インド半島の南では100m低く、逆にニューギニアでは70m高くなっています。
●重力はどこでも同じではない!
重力は、場所によって異なります。たとえば、赤道付近では遠心力が強いため重力は小さく、極付近では遠心力が弱いため重力は大きくなります。さらに地質構造(たとえば密度の高い物質の分布)によっても差が出ます。
地球内部の密度分布が均一な回転楕円体であると仮定したとき、各緯度の重力の理論値を標準重力といい、\(\nu_0\)で表します。※\(\nu\)はニュー(ギリシャ文字)。
【CHECK!】
- 地球の形は回転楕円体である。
- ジオイドとは重力の等しい仮想の水面である。
- 重力の違いは場所によって異なる(遠心力や密度が影響)。
🌎2. 重力異常
●重力補正とは?
私たちが重力測定を行う際、測定場所の標高や周囲の地形、さらには地球の内部構造による影響など、さまざまな要因が実測値に影響を与えます。これらの影響を取り除き、地下の密度の違いによる純粋な重力の影響を評価するために、いくつかの「補正」を行います。これを重力補正と呼びます。
1. 自由空気補正(Free-Air Correction, FAC)
重力測定は、通常、地表で行われます。しかし、標準重力はジオイド面(海面)で定義されています。この補正は、測定点の高さによる重力の変化を補正するものです。地球の中心からの距離が遠くなるほど重力は弱くなるため、標高が高い場所での重力は小さくなります。この補正では、測定点からジオイド面までの空気の質量は無視します。
測定点とジオイド面との高度差による重力変化を補正します。
- \(\Delta g_{FA}\): 自由空気補正量(mGal)
- \(h\): 測定点の標高(m)
- 0.3086: 重力加速度の変化率(mGal/m)。高度が1m高くなるごとに約0.3086 mGal重力が減少することを示します。
- 自由空気異常 (Free-Air Anomaly, FAA): 実測重力から標準重力を引き、さらに自由空気補正を行ったものです。
- \(g_{obs}\): 実測重力
2. ブーゲー補正(Bouguer Correction, BC)
自由空気補正では無視した、測定点の下にある岩石の質量による重力の影響を補正するものです。測定点からジオイド面までの間に存在する岩石(平均的な密度を持つと仮定)が重力に与える影響を取り除きます。これにより、地下のより深い場所の密度異常の影響が顕著になります。
測定点の下にある岩盤が、重力測定にどのような影響を与えているかを補正します。通常、岩盤は周囲よりも密度が高いため、重力を増加させる効果があります。
- \(\Delta g_B\): ブーゲー補正量(mGal)
- \(G\): 万有引力定数 (\(6.674 \times 10^{-11} \text{ Nm}^{2}/\text{kg}^{-11}\))
- \(\rho\): 測定点の下にある岩石の平均密度(g/cm3)。通常は2.67 g/cm3が用いられます。
- \(h\): 測定点の標高(m)
- 0.1119: 定数(\(\text{mGal} \cdot \text{cm}^{3} / (\text{g} \cdot \text{m})\))。密度1 g/cm3の岩石が1mの厚さで存在する場合、約0.1119 mGal重力が増加することを示します。
- * 補正量がマイナスなのは、取り除く(差し引く)ことを意味します。
- ブーゲー異常 (Bouguer Anomaly, BA): 自由空気異常からさらにブーゲー補正を行ったものです。
3. 地形補正(Terrain Correction, TC)
ブーゲー補正では、測定点の下の岩石を平らな板状として仮定しました。しかし、実際には山や谷といった凹凸があります。地形補正は、測定点周辺の実際の地形(山や谷)が重力に与える影響を補正するものです。山の部分は重力を増加させ、谷の部分は重力を減少させる効果があります。この補正は常に正の値となり、重力が増加する方向に補正されます。
- 考え方: 測定点周辺の山や谷の斜面が重力に与える影響を補正します。
- 式: 周囲の地形の起伏を考慮して複雑な計算が行われます。高校地学では具体的な式を覚える必要はありません。
- 完全ブーゲー異常 (Complete Bouguer Anomaly, CBA): ブーゲー異常からさらに地形補正を行ったものです。
- \(\Delta g_{TC}\): 地形補正量
●重力異常とは?
これらの補正を行った最終的な値が、通常「重力異常」として用いられます。特に完全ブーゲー異常は、地下の密度の偏りを最もよく反映していると考えられます。
重力異常が生じる主な原因は、地下の密度の偏りです。
重力異常が正の場合(プラス) | 重力異常が負の場合(マイナス) |
---|---|
地下の密度が周囲より高い物質が存在する(例:山脈の地下に高密度物質) | 地下の密度が周囲より低い物質が存在する(例:海底の堆積物、地下の空洞) |
→重力が強くなる | →重力が弱くなる |
この重力異常を調べることで、地下にどのような物質が、どのくらいの深さに分布しているかなどを推定することができます。
●具体的な例
- 海溝:一般的に重力異常が負になります。これは、海洋プレートが沈み込む場所であり、周囲よりも密度が低い物質(例えば、プレート内部の軽い岩石や水を含んだ堆積物)が存在するためと考えられます。
- 中央海嶺:一般的に重力異常が正になります。これは、マントル物質が上昇してくる場所であり、周囲よりも密度が高い物質が存在するためと考えられます。
⚖️3. アイソスタシー
●アイソスタシー(地殻均衡)
地球の地殻は、マントルの上に浮いていると考えてみましょう。お風呂に浮かべた木片が、重い部分ほど深く沈み、軽い部分ほど浅く浮くように、地殻もその重さに応じてマントル中に沈み込んでいます。このように、地殻がその質量に見合った深さに沈み込み、平衡状態を保っている状態をアイソスタシー(地殻均衡)といいます。
●アイソスタシーの考え方
- 山脈:標高の高い山脈の下には、その重さを支えるために、地殻が深く根を張っていると考えられます(地下の地殻が厚い)。これにより、地殻の質量が周囲とバランスし、重力異常は比較的小さくなります。もし、山脈の下に根がなければ、その重さの分だけ周囲よりも重力が大きくなり、正の重力異常を示すはずです。
- 大陸の氷床:大陸の上に厚い氷床が乗ると、その重みで地殻は沈み込みます。氷が融けると、地殻はゆっくりと隆起します。これは、氷がなくなることで地殻にかかる重みが減り、アイソスタシーが回復するためです。
●アイソスタシーと重力異常の関係
アイソスタシーが完全に成り立っている場所では、地下の密度の不均一性が地表の地形とバランスしているため、ブーゲー異常(重力測定値から、その場所の標高分の質量による重力効果を取り除いた重力異常)はほぼゼロに近くなります。しかし、アイソスタシーがまだ平衡状態に達していない場所や、地下に特別な構造がある場所では、重力異常が生じます。
【CHECK!】
- 重力異常は、実測重力にいくつかの補正(自由空気補正、ブーゲー補正、地形補正)を行うことで得られる。
- これらの補正によって、地下の密度の偏りによる純粋な重力の影響を評価できる。
- アイソスタシー(地殻均衡)は、地殻がマントルの上に浮き、その重さに見合った深さに沈み込んで平衡状態を保つことをいう。
- 重力異常の分布から、地下の構造やアイソスタシーの状態を推定することができる。
🧲4. 地球の磁気
地球は大きな磁石のようにふるまっています。北極がS極、南極がN極に対応するような磁場(地磁気)を持っています。
●地磁気の原因は?
地球内部の外核にある液体の鉄・ニッケルが自転により流動し、電流が発生することで磁場が生まれています。これは「ダイナモ理論」と呼ばれます。
●地磁気の変化
地磁気は一定ではなく、西へずれている(西偏)ことが観測されています。また、過去には磁極が逆転(地磁気逆転)していたことも地層の磁性鉱物からわかっています。
地磁気の逆転で最も最近のものは77万年前のもので、これは千葉セクションからわかります。また、77万4000年前~12万9000年前までを、地質年代としてチバニアンと言います。
【CHECK!】
- 地磁気は地球内部の外核の流動によって発生する(ダイナモ理論)。
- 地磁気は過去に何度も逆転している。
- 地磁気の向きは場所により異なる(偏角・伏角)。
🌋5. 地球の内部構造
地球内部は、直接見えないため、地震波を使って構造を推定します。
●地球内部の構造(大きく4層)
1. 地殻(crust):外側のごく薄い層。大陸地殻と海洋地殻がある。
2. マントル(mantle):地球の体積の約8割を占める。高温だが固体。
3. 外核(outer core):液体の鉄とニッケル。S波が通れない。
4. 内核(inner core):固体の鉄。圧力で固まっている。
●地震波とは?
- P波(Primary Wave):縦波。固体・液体を伝わる。速い。
- S波(Secondary Wave):横波。固体のみを伝わる。遅い。
これらの波の伝わり方から、内部構造を逆算できます。
●モホロビチッチ不連続面(モホ面)
地殻とマントルの境界には、地震波速度が急に増加する不連続面があり、「モホロビチッチ不連続面」と呼ばれます。ほかにも不連続面はあります(コンラッド、グーテンベルク、レーマン)。
●走時曲線
地震が発生すると、そこからP波とS波が四方八方に伝わっていきます。これらの地震波が観測点に到達するまでの時間(走時)と、震源からの距離(震央距離)との関係を示したグラフを走時曲線といいます。
震源からの距離が遠くなるほど地震波が到達する時間は遅くなりますが、地球内部は深くなるにつれて地震波の速度が変化するため、走時曲線は単純な直線にはなりません。特に、不連続面を通過する際には、波の速度が急激に変化するため、走時曲線の傾きが変わったり、新しい波(反射波や屈折波)が出現したりします。
【走時曲線の特徴】
- 震央距離が0の場合: 地震が発生した瞬間のため、走時は0となります。
- P波とS波の速度差: P波の方がS波よりも速く伝わるため、同じ震央距離では常にP波の方がS波よりも早く到達します。この到達時間の差を利用して、震源からの距離を推定することができます。
- 地球内部の速度構造: 地球内部は、深くなるにつれて地震波の速度が徐々に速くなる傾向があります。これは、深部ほど物質の密度や硬さが増すためです。この速度変化によって、走時曲線は緩やかにカーブします。
- 不連続面による影響:
* モホ面などの不連続面: 地震波が不連続面に到達すると、一部はそこで反射し、一部は屈折してさらに深く伝わっていきます。このとき、屈折した波が浅い層を伝わる波よりも早く観測点に到達することがあります。これは、深い層ほど波の速度が速いため、遠い観測点では深い層を伝わってきた波の方が有利になるためです。
* シャドーゾーン(陰の領域): 外核が液体であるため、S波は外核を通過できません。また、P波も外核との境界で大きく屈折するため、ある震央距離の範囲(約103°〜143°)にはP波がほとんど到達しない領域が存在します。この領域をP波のシャドーゾーンと呼びます。S波のシャドーゾーンは、外核を挟んで震源の反対側全体(約103°より遠い領域)に広がります。
【震源までの距離dの計算】
地震が発生してからP波とS波が観測点に到達するまでの時間差(\(t_S - t_P\))を利用して、震源からの距離dを推定することができます。P波の速度を\(V_P\)、S波の速度を\(V_S\)とすると、それぞれの走時は次の式で表されます。
この2つの式から、以下の関係が導き出されます。
したがって、震源からの距離dは、次のように求めることができます。
この式を用いることで、1つの観測点でP波とS波の到達時間差が分かれば、震源までの距離を計算することができます。複数の観測点の距離が分かれば、それぞれの観測点を中心とする円を描き、それらが交わる点として震源の位置を特定できます。
【CHECK!】
- 地震波の伝わり方から地球内部を推定する。
- S波は液体を伝わらない(外核の存在の証拠)。
- モホ面は地殻とマントルの境界にある。
- 走時曲線は、地震波の走時と震央距離の関係を示すグラフである。
- 走時曲線の形状やシャドーゾーンから、地球内部の速度構造や不連続面がわかる。
- P波とS波の到達時間差から、震源までの距離dを計算できる。
🔥6. 地球内部の状態と物質
●温度と圧力
地球内部は、深くなるほど温度も圧力も高くなります。地球の中心部(内核)では、6000℃以上と推定されています。圧力も数百万気圧に達します。
●地球内部の物質
- 地殻:主にケイ酸塩鉱物(石英・長石など)
- マントル:かんらん岩が主体。かんらん石(オリビン)を含む。
- 外核:液体の鉄(Fe)・ニッケル(Ni)
- 内核:固体の鉄(Fe)・ニッケル(Ni)
●アセノスフェアとリソスフェア
- リソスフェア(岩石圏):地殻+マントル上部の硬い部分。
- アセノスフェア(軟弱圏):その下にある比較的柔らかい層(部分溶融)。
これはプレートの動きと密接に関係しています。
【CHECK!】
- 地球内部では深くなるほど温度・圧力が上昇する。
- マントルはかんらん岩でできている。
- アセノスフェアは部分的に溶けた軟らかい層で、プレートの動きに関係する。
✅受験チェックポイント
内容 | ポイント |
---|---|
地球の形 | 赤道が膨らんだ回転楕円体(ジオイドにも注意) |
重力の違い | 自転による遠心力・密度分布 |
地磁気 | 外核の流動によるダイナモ理論・逆転も出る |
地震波 | P波とS波の違いをしっかり区別 |
地球の内部構造 | 地殻・マントル・外核・内核の性質と構成物質 |
モホ面 | 地震波速度の不連続面 |
リソスフェアとアセノスフェア | プレートテクトニクスと関連する概念 |