地学基礎⑫:海水の運動
この記事で探究すること
地球の表面の約7割をおおう、広大な海。その海水は、決して静止しているわけじゃない。風の力や、水温・塩分の違いによって、地球全体をめぐる巨大な流れ「海流」となっているんだ。この単元では、日本の気候に大きな影響をあたえる海流や、地球全体の気候を安定させる、深海の壮大な循環について探究するよ。
1. 表層海流とその成因
海洋の表面近くを流れる海水の大きな流れを「表層海流」という。その主な原因は、海の上を吹く**風**だ。特に、大気の大循環によって、ほぼ一定方向に吹き続ける貿易風や偏西風が、海水を動かす大きな原動力となっている。
風によって動き出した海水は、地球の自転の影響(コリオリの力)と、大陸の存在によって、北太平洋や北大西洋などの各海洋で、大きな渦のような循環(環流)を形成している。
2. 日本付近の海流
日本列島のまわりには、性質の異なる2つの主要な海流が流れており、日本の気候や漁業に大きな影響をあたえている。
- 黒潮(日本海流):東シナ海から、日本の南岸に沿って北東へ流れる世界最大級の暖流。高温・高塩分で、濃い青色をしている。多くの熱と水蒸気を大気に供給し、日本の気候を温暖で湿潤にしている。
- 親潮(千島海流):オホーツク海から、日本の東岸に沿って南下してくる寒流。低温・低塩分。栄養塩類に富み、豊かな漁場(三陸沖など)を形成する。夏には、親潮の上を暖かく湿った空気が通過する際に、濃い海霧を発生させることがある。
この黒潮と親潮が出会う潮目(潮境)は、プランクトンが豊富に発生し、魚が集まる、世界有数の好漁場となっている。
ちさまるといっしょに考えよう!
海流も、大気の大循環と同じように、低緯度の熱を高緯度へ運んでいるのかな?
その通り! 黒潮のような暖流は、赤道付近で蓄えた莫大な熱エネルギーを、北の中緯度・高緯度地域へと運んでいる。海流は、大気の大循環と並んで、地球の緯度ごとの熱の不均衡を解消する、きわめて重要な役割を担っているんだ。
コレクトの発展ラボ:熱塩循環
豆知識ですが、海水の動きは、表面の風成循環だけではありません。海洋の深層では、風とは異なるメカニズムで、数千年という壮大な時間をかけて地球全体をめぐる、巨大な循環が存在します。これが「熱塩循環(ねつえんじゅんかん)」です。
この循環の駆動力は、海水の**水温**と**塩分**の違いによる**密度**の差です。例えば、グリーンランド沖などの高緯度域では、海水が冷やされ、また、海氷が形成される際に塩分が排出されることで、海水は冷たくて塩辛くなります。その結果、密度が非常に大きくなった海水は、重くなって深層へと沈み込みます。この沈み込みがポンプの役割を果たし、地球全体の深層海流を駆動しているのです。この循環は「海洋のコンベヤーベルト」ともよばれ、地球全体の気候を安定させる上で、極めて重要な役割を担っています。
共通テスト対策まとめ
海流は、大気との相互作用で問われることが多いぞ!
- 表層海流の主な原因が「風」(特に貿易風と偏西風)であることを理解する。
大気の大循環が、海洋循環の主な駆動力となっていることを押さえよう。 - 日本付近の2大海流、「黒潮」と「親潮」の名称、性質(暖流/寒流)、流れる経路、そして日本への影響を完璧に覚える。
- 海流の最も重要な役割の一つが「熱輸送」であることを理解する。
低緯度の余剰な熱を、高緯度へと運ぶ、地球の気候安定化システムの一部だ。 - 【発展】熱塩循環の駆動力を説明できるようにする。
キーワードは「高緯度での冷却・結氷」→「高密度化」→「沈み込み」。
練習問題
問1:海洋の表層海流を駆動する主な原因は何か。
問2:日本の南岸を北東に流れる、世界最大級の暖流の名称を答えなさい。
問3:海洋の深層で、水温と塩分の違いによる密度の差を駆動力として生じる、地球規模の海水の循環を何というか。
解答と解説
問1の答え:風(特に、大気の大循環によって生じる貿易風や偏西風)
問2の答え:黒潮(日本海流)
問3の答え:熱塩循環