資料編:地学基礎で用いる数学
コレクトによる序文
数学は、科学の言語です。地学で登場する数式は、複雑な自然現象の背後にある、シンプルで美しい法則性を表現するための、最も強力なツールなのです。ここでは、文系の探究者も、数学が苦手な探究者も、その本質が理解できるよう、「なぜ、その数学が必要なのか」という視点から、具体例と共に解説します。
1. 比例計算:すべての基本にして、最強のツール
【なぜ必要か?】自然界の多くの現象は、「片方が増えれば、もう片方も増える」という、単純な関係で近似できるからです。この関係性を数式で表現する最も簡単な方法が、比例です。
【具体例】ハッブル・ルメートルの法則
天文学者ハッブルは、遠くの銀河ほど速く後退していることを発見しました。これは、「距離が2倍になると、後退速度も2倍になる」という、典型的な比例関係です。これを数式で表現すると、こうなります。
2. 三角比:測れない距離を、測るための知恵
【なぜ必要か?】星までの距離や、山の高さを、ものさしで直接測ることはできません。しかし、我々は「角度」を測ることはできます。三角比は、この「測れる角度」と「知りたい距離」とを結びつける、魔法の架け橋なのです。
【具体例】地震の震源の深さを求める
ある観測点Aの真下の、地表からの距離を「震央距離(x)」、地下の震源までの深さを「d」、そして観測点Aから震源までの直線距離を「震源距離(L)」とすると、この3つは直角三角形を描きます。三平方の定理より、
3. 指数・対数:天文学的な数字を、人間の感覚に近づける
【なぜ必要か?】地球の年齢(46億年)や、天体間の距離(何万光年)、地震のエネルギー(1000倍のちがい)など、地学が扱う数値は、日常感覚からかけ離れた、巨大なスケールを持っています。指数・対数は、これらの天文学的な数値を、人間が扱いやすい「ものさし」に変換するための、必須のツールです。
【具体例】マグニチュードとエネルギーの関係
マグニチュード(M)が1増えると、エネルギー(E)は約32倍になります。これは、\( E \propto 32^M \) のような指数関数的な関係を示唆します。しかし、これでは計算が複雑です。そこで、常用対数(log₁₀)という「ものさし」でエネルギーEを測り直したものが、マグニチュードMなのです。その関係は、近似的に以下のように表せます。