地学基礎⑪:大気の大循環
この記事で探究すること
赤道ちかくのあまった太陽エネルギーは、どうやって北極や南極に運ばれるんだろう? 日本の上空をふきぬける「偏西風」の正体って、いったい何? この単元では、地球という巨大なスケールで、空気がどのように循環しているのか、「大気の大循環」のダイナミックなしくみを探究するよ。日々の天気のうらにかくされた、地球規模のエネルギーの流れを見ていこう!
1. 大気の大循環のモデル
前単元で学んだように、地球は低緯度でエネルギー過剰、高緯度でエネルギー不足の状態にある。このエネルギーの不均衡を解消するために、大気と海洋が、熱を低緯度から高緯度へと運んでいる。その大気による熱輸送のしくみが「大気の大循環」だ。
地球の自転の影響により、大気の循環は、北半球と南半球で、それぞれ3つの巨大な循環細胞(セル)に分かれている。
- ハドレー循環(低緯度):赤道付近で上昇した空気が、緯度30°付近で下降する循環。地表では、亜熱帯高圧帯から赤道低圧帯へ向かう「貿易風」が吹く。
- フェレル循環(中緯度):ハドレー循環と極循環の間に位置する、間接的な循環。地表では、緯度30°付近から緯度60°付近へ向かう「偏西風」が吹く。
- 極循環(高緯度):極付近で下降した冷たい空気が、緯度60°付近で上昇する循環。地表では「極偏東風」が吹く。
2. 帯状の気圧帯
この3つの循環に対応して、地表付近の気圧は、緯度ごとに帯状に分布する傾向がある。
- 赤道低圧帯:ハドレー循環の上昇気流が起きる場所。雲ができやすく、雨が多い(熱帯雨林)。
- 亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯):緯度30°付近。ハドレー循環の下降気流が起きる場所。雲ができにくく、乾燥している(世界の砂漠の多くが、この緯度帯に分布する)。
- 亜寒帯低圧帯(高緯度低圧帯):緯度60°付近。フェレル循環と極循環の空気がぶつかり、上昇気流が起きる場所。前線が形成されやすく、天気が悪いことが多い。
- 極高圧帯:極循環の下降気流が起きる場所。
コレクトの発展ラボ:コリオリの力と地衡風
豆知識ですが、なぜ風は、高気圧から低気圧に向かってまっすぐ吹かないのでしょうか? その原因が、地球の自転によって生じる見かけの力、「コリオリの力」です。北半球では、コリオリの力は、風の進行方向に対して常に右向きに働きます。
上空では、摩擦の影響が小さいため、気圧の差によって生じる力(気圧傾度力)と、コリオリの力がちょうどつり合った状態になります。その結果、風は、等圧線に平行に吹くことになります。この風を「地衡風」とよびます。偏西風は、この地衡風の一種です。
コレクトの数理的アプローチ:思考実験
【思考実験】もし、地球の自転が今と逆(東から西)だった場合、北半球の偏西風と貿易風の風向は、それぞれどのようになると考えられるか?
【論理的考察】
① コリオリの力は、自転の向きに依存する。自転が逆になれば、コリオリの力が働く向きも逆になり、北半球では進行方向に対して左向きに働くようになる。
② 貿易風は、亜熱帯高圧帯(緯度30°)から赤道低圧帯へ向かう、北から南への流れが基本。これに左向きの力が加わるため、風は西へ曲げられ、北西風になると考えられる。
③ 偏西風は、亜熱帯高圧帯から亜寒帯低圧帯へ向かう、南から北への流れが基本。これに左向きの力が加わるため、風は東へ曲げられ、南東風になると考えられる。
共通テスト対策まとめ
大気の大循環は、全球的な視野で天気を理解する鍵だ!
- 3つの循環細胞(ハドレー、フェレル、極)の名称と、おおよその緯度帯を覚える。
- それぞれの循環に対応する地表の風(貿易風、偏西風、極偏東風)の名称と、おおよその風向を理解する。
特に、日本に影響する「偏西風」が、なぜ西風になるのかを、コリオリの力と結びつけて説明できるようにしておくこと。 - 緯度ごとの気圧帯と、降水量の関係を理解する。
「上昇気流=低圧帯=雨が多い(赤道、緯度60°)」「下降気流=高圧帯=乾燥(緯度30°、極)」という関係は絶対!世界の砂漠がなぜ緯度30°付近に多いのか、という問いは頻出。
練習問題
問1:中緯度帯の上空を、一年を通して西から東へ吹く風を何というか。
問2:赤道付近に形成され、上昇気流が卓越することで、降水量が多い気圧帯を何というか。
問3:世界の砂漠の多くが、南北の緯度30°付近に分布している。その理由を、「大気の大循環」と「気圧帯」という語句を用いて、簡潔に説明しなさい。
解答と解説
問1の答え:偏西風
問2の答え:赤道低圧帯
問3の答えの例:
緯度30°付近は、大気の大循環におけるハドレー循環の下降気流が発生する場所であり、年間を通して亜熱帯高圧帯が形成される。下降気流が起きる場所では、雲が発生しにくく、降水量が極めて少ないため、砂漠が形成されやすい。