地学基礎⑩:大気の構造と熱収支
この記事で探究すること
わたしたちが毎日吸っている、空気。「大気」ともよばれるこの空気の層は、いったいどこまで続いていて、どんな構造になっているんだろう? そして、地球が太陽から受けとる莫大なエネルギーを、どうやって宇宙に返し、絶妙なバランスを保っているんだろう? この単元では、大気の鉛直構造と、地球全体のエネルギーの出入りである「熱収支」について探究するよ。
1. 大気の鉛直構造
地球の大気は、地上から宇宙空間まで、一様な性質ではない。高度による温度変化にもとづいて、下から順に「対流圏」「成層圏」「中間圏」「熱圏」の4つの層に区分される。
- 対流圏(高度0~約11km):上空へ行くほど気温が下がる。空気の対流が活発で、雲の発生や降水といった、わたしたちが体験する気象現象は、すべてこの層で起きる。
- 成層圏(約11~50km):上空へ行くほど気温が上がる。オゾン層がこの層に存在し、太陽からの有害な紫外線を吸収することで、大気をあたためている。大気が非常に安定しているため、ジェット旅客機などが飛行する。
- 中間圏(約50~80km):上空へ行くほど気温が再び下がる。大気圏に突入した流星が、光って見えるのはこの層だ。
- 熱圏(約80km~):上空へ行くほど気温が急激に上がる。空気は非常にうすいが、太陽からのエネルギーを直接受けるため、温度は数百度にも達する。オーロラが出現するのもこの層だ。
ちさまるといっしょに考えよう!
対流圏では、上空に行くほど太陽に近づくのに、どうして気温は下がっていくんだろう?
それは、大気が、太陽からの光で直接あたためられているわけではないからだ。大気は、まず太陽光が地面をあたため、その地面から放出される熱(赤外線)を受けとって、下からあたためられている。だから、熱源である地面から離れるほど、気温は下がっていくんだね。
2. 地球の熱収支
地球の平均気温は、長い目で見ると、ほぼ一定に保たれている。これは、地球が太陽から受けとるエネルギー量と、地球が宇宙空間へ放出するエネルギー量が、全体として釣り合っている(収支がゼロになっている)からだ。これを「地球の熱収支(放射平衡)」という。
コレクトの論理 de 解説:エネルギーの流れ
太陽から地球に入射するエネルギーを100とすると、その流れは以下のようになります。
- 約30%は、雲や地表で反射され、そのまま宇宙空間へ戻る(この反射率をアルベドという)。
- 約20%は、大気や雲に吸収される。
- 残りの約50%が、地表に吸収される。
吸収されたエネルギーは、最終的に、地表や大気から地球放射(赤外線)として宇宙空間へ放出されます。このとき、大気中の水蒸気や二酸化炭素といった「温室効果ガス」が、地表からの放射の一部を吸収し、再び地表へ返す(温室効果)ことで、地球は生物が生存可能な平均気温(約15℃)に保たれているのです。
コレクトの数理的アプローチ:放射平衡温度
仮に、地球に大気がなく、温室効果が全くなかった場合の、地球の平均表面温度(放射平衡温度)を計算してみましょう。物理法則によると、物体が放出するエネルギーは、その表面温度の4乗に比例します(シュテファン・ボルツマンの法則)。
地球が吸収する太陽放射エネルギーと、地球自身が放出する地球放射エネルギーが等しいという「熱収支のつり合い」から計算すると、この放射平衡温度は、約-18℃となります。実際の地球の平均気温(約15℃)よりも、30℃以上も低い値です。この差こそが、大気の持つ「温室効果」がいかに絶大であるかを示しています。
コレクトの発展ラボ:緯度別の熱収支
豆知識ですが、地球全体では熱収支は釣り合っていますが、緯度別に見ると、そうではありません。
- 低緯度地域(赤道付近):太陽からのエネルギーを多く受けとるため、熱収支はプラス(エネルギー過剰)。
- 高緯度地域(極付近):太陽からのエネルギーが少ないため、熱収支はマイナス(エネルギー不足)。
この、低緯度で余ったエネルギーを、高緯度へと運ぶ巨大な流れこそが、次単元で学ぶ「大気の大循環」や「海流」なのです。地球は、常に熱のバランスをとろうとする、巨大な熱エンジンなのです。
共通テスト対策まとめ
大気の構造と熱収支は、気象分野の基礎となる最重要テーマだ!
- 大気の4層構造の名前と、それぞれの温度変化の傾向を完璧に覚える。
特に、気象現象が起きる「対流圏」と、オゾン層がある「成層圏」の特徴は頻出。 - 地球の熱収支の、基本的な数値(アルベド約30%、地表吸収約50%)を覚える。
エネルギーの流れを図で理解することが重要。 - 「温室効果」のメカニズムを説明できるようにする。
キーワードは「温室効果ガス(二酸化炭素など)」と「地球放射(赤外線)の吸収・再放射」。 - 緯度別の熱収支の不均衡と、そのエネルギー輸送の担い手(大気・海洋)を理解する。
練習問題
問1:大気の鉛直構造のうち、雲の発生などの気象現象が起こる層を何というか。
問2:太陽から入射するエネルギーのうち、雲や地表で反射される割合(アルベド)は、約何%か。
問3:大気中の二酸化炭素などが増加すると、地球全体の平均気温が上昇するのはなぜか。「地球放射」と「吸収」という語句を用いて、簡潔に説明しなさい。
解答と解説
問1の答え:対流圏
問2の答え:約30%
問3の答えの例:
二酸化炭素は、地表から放出される地球放射(赤外線)を吸収し、再び地表へ返す性質を持つ。そのため、大気中の二酸化炭素が増加すると、宇宙へ逃げる熱が減り、地球全体の平均気温が上昇するから。