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地学㉘:恒星の性質②
~HR図と恒星の物理量~

好奇心旺盛なちさまる この記事で探究すること

恒星の「明るさ」と「色(表面温度)」がわかると、何がわかるんだろう? 実は、この2つの情報だけで、星の「大きさ(半径)」や「種類」、そして、その星が一生のどの段階にあるのかまで、驚くほど多くのことがわかってしまうんだ。この単元では、天文学で最も重要なグラフ「HR図」を読み解き、恒星の半径や質量といった、真の姿にせまっていくよ。

1. スペクトル型とHR図

恒星の色(表面温度)は、その光のスペクトルに見られる吸収線の種類によって、より細かく分類される。これを「スペクトル型」といい、高温の側から順に、O, B, A, F, G, K, M の記号で表される。(覚え方:「Oh, Be A Fine Girl/Guy, Kiss Me!」)

このスペクトル型(表面温度)を横軸に、絶対等級(真の明るさ)を縦軸にとって、多数の恒星をプロットしたグラフが「HR図(ヘルツシュプルング・ラッセル図)」だ。HR図上では、恒星はランダムに分布するのではなく、いくつかの特徴的なグループを形成する。

2. 恒星の放射エネルギーと半径

恒星の真の明るさ(光度 L)は、その星が単位時間に放出する、全エネルギー量で決まる。これは、シュテファン・ボルツマンの法則を用いて、星の半径 R と、表面温度 T から、計算することができる。

教材執筆中のコレクト コレクトの数理的アプローチ:光度と半径の関係式

シュテファン・ボルツマンの法則によれば、単位面積あたりの放射エネルギーは \( \sigma T^4 \) でした。恒星は半径 R の球なので、その全表面積は \( 4\pi R^2 \) です。したがって、恒星全体の光度 L は、以下の式で表されます。

\[ L = 4\pi R^2 \sigma T^4 \]
この式は、恒星の物理量を結びつける、極めて重要な関係式です。例えば、HR図の右上に位置する赤色巨星が、なぜ表面温度が低い(Tが小さい)のに、非常に明るい(Lが大きい)のかを説明できます。それは、半径 R が、太陽の何百倍も巨大だからです。

考え中のちさまる 【例題】ベテルギウスの半径

オリオン座のベテルギウスは、太陽と比べて、光度が14万倍(\(L_{Bet} = 1.4 \times 10^5 L_{Sun}\))、表面温度が0.6倍(\(T_{Bet} = 0.6 T_{Sun}\))である。ベテルギウスの半径は、太陽の何倍か?

【解答プロセス】
太陽についての式 \( L_{Sun} = 4\pi R_{Sun}^2 \sigma T_{Sun}^4 \) と、ベテルギウスについての式 \( L_{Bet} = 4\pi R_{Bet}^2 \sigma T_{Bet}^4 \) を立て、両者の比をとる。

\[ \frac{L_{Bet}}{L_{Sun}} = \frac{4\pi R_{Bet}^2 \sigma T_{Bet}^4}{4\pi R_{Sun}^2 \sigma T_{Sun}^4} = \left(\frac{R_{Bet}}{R_{Sun}}\right)^2 \left(\frac{T_{Bet}}{T_{Sun}}\right)^4 \]
数値を代入すると、
\[ 1.4 \times 10^5 = \left(\frac{R_{Bet}}{R_{Sun}}\right)^2 (0.6)^4 \]
\[ \left(\frac{R_{Bet}}{R_{Sun}}\right)^2 = \frac{1.4 \times 10^5}{(0.6)^4} \approx \frac{140000}{0.1296} \approx 1080000 \]
\[ \frac{R_{Bet}}{R_{Sun}} = \sqrt{1080000} \approx 1039 \]
答え:約1000倍(太陽の位置に置くと、火星の軌道をも飲み込む大きさ!)

3. 恒星の質量

恒星の物理量の中で、最も重要で、その運命を決定づけるのが「質量」だ。しかし、単独の星の質量を直接測ることは、非常にむずかしい。恒星の質量は、2つの星が互いのまわりを公転している「連星」の運動を観測することで、決定される。

豆知識を話すコレクト 【接続・物理】ケプラーの第3法則の一般化

ケプラーの第3法則は、ニュートンの万有引力の法則によって、連星系に一般化することができます。2つの恒星の質量を M₁ と M₂、公転周期を P、軌道の半長径を a とすると、以下の関係が成り立ちます。

\[ \frac{a^3}{P^2} = G(M_1 + M_2) \]
(Gは万有引力定数)
連星の軌道運動を観測し、周期Pと距離aを求めることができれば、この式から、2つの星の質量の合計を、物理的に算出することができるのです。さらに、スペクトル線のドップラー効果を観測することで、各々の星の速度がわかり、質量の比も決定できます。

なるほど!と話すちさまる 受験対策まとめ

HR図は、恒星物理のすべてを凝縮した「周期表」だ!

  1. スペクトル型の順番(O, B, A, F, G, K, M)と、それが表面温度の指標であることを覚える。
    O型が高温(青)、M型が低温(赤)だ。
  2. HR図の「縦軸(絶対等級)」「横軸(表面温度/スペクトル型)」と、主要なグループ(主系列星、巨星、白色矮星)の配置を、自分で描けるようにする。
  3. 恒星の光度、半径、温度の関係式( \( L = 4\pi R^2 \sigma T^4 \) )を理解し、比の計算に使えるようにする。
    「光度は半径の2乗と温度の4乗に比例する」と、言葉で覚えておこう。
  4. 恒星の最も基本的な物理量である「質量」が、「連星」の観測によって決定されることを理解する。

練習問題

問1:恒星の表面温度を横軸に、絶対等級を縦軸にとって、恒星をプロットした図を何というか。
問2:恒星Aは、恒星Bと比べて、半径は3倍、表面温度は2倍であった。恒星Aの光度は、恒星Bの光度の何倍か。
問3【論述】:HR図の右上に位置する「赤色巨星」は、その名の通り、色が赤く(=表面温度が低い)、しかし、非常に明るい(=絶対等級が小さい)。この一見、矛盾した特徴は、赤色巨星がどのような物理的状態にあることを示しているか。シュテファン・ボルツマンの法則(\( L = 4\pi R^2 \sigma T^4 \))に言及しつつ、60字程度で説明しなさい。

解答と解説

問1の答え:HR図(ヘルツシュプルング・ラッセル図)

問2の答え:144倍
【解説】光度Lは、半径Rの2乗と、温度Tの4乗に比例する。したがって、\( 3^2 \times 2^4 = 9 \times 16 = 144 \) 倍。

問3の解答例:
表面温度(T)が低くても光度(L)が大きいのは、シュテファン・ボルツマンの法則より、半径(R)が極めて巨大であるため。(59字)