地学㉗:恒星の性質①
~星の明るさと色を物理法則で読み解く~
この記事で探究すること
夜空にまたたく、無数の恒星たち。その明るさや色の違いは、星が持つ、どんな物理的な性質を反映しているんだろう? この単言では、「等級」という星の明るさのものさしと、星までの「距離」の測り方、そして、星の色からその「表面温度」を知るための、2つの重要な物理法則について、数式を用いて、定量的に探究していくよ。宇宙を測る、壮大な物理学の始まりだ。
1. 星の明るさと等級
恒星の明るさは**「等級」**で表され、1等級の差は約2.512倍の明るさの比に、5等級の差はちょうど100倍の明るさの比に対応する、対数スケールである。
- 見かけの等級 (m):地球から見たときの明るさ。
- 絶対等級 (M):すべての恒星を、一律に10パーセクの距離に置いたと仮定したときの明るさ。星の真の明るさ(光度)を示す。
2. 恒星までの距離の測定:年周視差
比較的近くにある恒星までの距離は、地球の公転を利用した、三角測量の原理で測定できる。地球が公転軌道上の反対側の位置に移動したとき(半年後)、近くの恒星は、遠方の背景の星々に対して、わずかに位置がずれて見える。この見かけのずれの角度の半分を「年周視差 (p)」という。
コレクトの数理的アプローチ:距離と等級の関係
年周視差 p [秒] と、恒星までの距離 r [パーセク, pc] の間には、以下のシンプルな逆数関係があります。
また、見かけの等級 m と絶対等級 M、そして距離 r [pc] の間には、以下の関係式(等級式)が成り立ちます。これは、光の強さが距離の2乗に反比例することから導かれます。
【例題】絶対等級の計算
ある恒星の年周視差が0.1秒、見かけの等級が3等であった。この恒星の絶対等級 M を求めなさい。(\( \log_{10} 10 = 1 \))
【解答プロセス】
① まず、年周視差 p から、距離 r を求める。
\( r = 1/p = 1/0.1 = 10 \) [pc]
② 等級式に、m=3, r=10 を代入して M を求める。
\( 3 - M = 5 \log_{10} 10 - 5 \)
\( 3 - M = 5 \times 1 - 5 = 0 \)
したがって、\( M = 3 \)
答え:3等
3. 恒星の色と表面温度
恒星の色は、その表面温度を、きわめて正確に反映している。この関係性は、物理学の2つの基本法則によって、定量的に記述される。
コレクトの論理 de 解説:2つの放射法則
恒星を、理想的な放射体である「黒体」と仮定すると、以下の法則が成り立ちます。
① ウィーンの変位則:黒体が放射するエネルギーが最大となる波長(\( \lambda_{max} \))は、その表面温度 (T) に反比例する。
② シュテファン・ボルツマンの法則:黒体の単位面積から、単位時間に放射されるエネルギーの総量 (E) は、その表面温度 (T) の4乗に比例する。
受験対策まとめ
恒星の物理は、公式の意味を理解し、使いこなすことが全てだ!
- 「年周視差(p)」と「距離(r)」の関係式( \( r = 1/p \) )を完璧にマスターする。
単位が「秒」と「パーセク」であることに注意! - 等級式( \( m - M = 5 \log_{10} r - 5 \) )は、見かけの等級(m)、絶対等級(M)、距離(r)のうち、2つが分かれば、残りの1つが求まる、魔法の式だと理解する。
- ウィーンの変位則は、「温度が高いほど、波長は短く(青く)なる」という反比例の関係を押さえる。
- シュテファン・ボルツマンの法則は、「エネルギーは、温度の4乗に比例する」という、強烈な関係性を覚える。
温度が2倍になれば、エネルギーは16倍になる、という計算は頻出。
練習問題
【計算問題】
問1:ある恒星までの距離が50パーセクであった。この恒星の年周視差は何秒か。
問2:太陽の表面温度は約6000Kである。もし、太陽と全く同じ大きさで、表面温度が12000Kの恒星があったとすると、その星が単位時間・単位面積あたりに放出するエネルギーは、太陽の何倍になるか。
【論述問題】
問3:恒星Aと恒星Bは、見かけの等級が全く同じであった。しかし、年周視差を測定したところ、恒星Aの方が、恒星Bよりも大きかった。2つの星の真の明るさ(絶対等級または光度)を比較すると、どちらが、どのくらい明るいと言えるか。理由とともに説明しなさい。
解答と解説
問1の答え:0.02秒
【解説】\( p = 1/r = 1/50 = 0.02 \) [秒]。
問2の答え:16倍
【解説】シュテファン・ボルツマンの法則より、エネルギーは温度の4乗に比例する。温度が2倍(12000K / 6000K)になったので、エネルギーは \( 2^4 = 16 \) 倍になる。
問3の解答例:
恒星Bの方が、恒星Aよりも真の明るさは明るい。年周視差が大きいAの方が、Bよりも地球に近い距離にある。より近くにあるAが、遠くにあるBと同じ見かけの明るさでしかないということは、Bの方が、本来の明るさが、はるかに明るいことを意味するため。