地学⑤：プレートテクトニクス②
～理論の確立とマントルダイナミクス～

この記事で探究すること

「海洋底が拡大している」という画期的な発見は、やがて地球の表面全体をおおう、より大きな理論へと発展していく。それが「プレートテクトニクス」だ。この単元では、プレートテクトニクス理論がどのように確立され、地震や火山といった様々な地学現象を、統一的に説明するに至ったのかを探究する。さらに、その視線は地球の深部、プレートを動かすエンジンの正体である「マントルの動き」の解明へと向かうよ。

1. プレートテクトニクスの成立

1960年代後半、海洋底拡大説や、地震の震源分布、火山の分布といった、それまで別々に議論されてきた地球科学の様々な知見が、一つの理論体系へと統合された。それが「プレートテクトニクス」理論だ。

この理論の核心は、地球の表面が、厚さ約100kmの固い岩盤「プレート」で覆われており、このプレートが生成・移動・沈み込みをすることで、地表の様々な地学現象（地震、火山、造山運動など）が引き起こされる、という考え方にある。ウェゲナーの大陸移動説と、ヘスの海洋底拡大説は、このプレートテクトニクスという、より包括的な理論の重要な構成要素として、見事に統合されたんだ。

2. プレートテクトニクスの展開

プレートテクトニクス理論は、地球科学のあらゆる分野に革命をもたらした。

• 地震の分布：世界の震源分布が、プレートの境界とほぼ一致することを完璧に説明した。特に、海溝に沿って、沈み込むプレートに沿うように震源が深くなっていく「深発地震面（ワダチ・ベニオフ帯）」の存在は、プレートが実際にマントルへ沈み込んでいる動かぬ証拠となった。
• 火山の分布：火山の多くが、プレートが生まれる「海嶺」と、プレートが沈み込む「海溝の陸側」に分布することを説明した。
• 造山運動：ヒマラヤ山脈のような巨大な山脈が、大陸プレートどうしの衝突によって形成されることを説明した。

3. マントルの動きと地震波トモグラフィー

プレートを動かす原動力が、マントルの「対流」であることは、理論の初期から考えられていた。しかし、その動きを直接見ることはできない。この、地球最大の謎であったマントルの動きを、人類は「地震波」という目を使って、ついに可視化することに成功した。その技術が「地震波トモグラフィー」だ。

コレクトの論理 de 解説：地震波トモグラフィーの原理

地震波の伝わる速さは、媒質の温度に依存します。一般的に、温度が低い物質ほど地震波は速く伝わり、温度が高い物質ほど遅く伝わります。

地震波トモグラフィーは、世界中で発生した無数の地震の波が、地球の内部を通過して、世界中の地震計に到達するまでの時間を精密に測定し、コンピュータで解析します。ある経路を通った波が、予測よりも速く到着した場合、その経路にはまわりよりも冷たい物質があったと推測できます。逆に、遅く到着した場合は、熱い物質があったと推測できます。この膨大なデータを統合することで、地球内部の三次元的な温度構造を、CTスキャンのように描き出すことができるのです。

この技術によって、海溝からマントル深部へと沈み込んでいく、冷たい海洋プレート（コールドプルーム）や、逆に、マントルの底から上昇してくる、高温の物質の流れ（ホットプルーム）の存在が、実際に観測され、マントル対流の具体的な姿が、明らかになりつつあります。

コレクトの発展ラボ：ウィルソンサイクル

豆知識ですが、プレートテクトニクスは、大陸の離合集散が、数億年という壮大な周期で繰り返されてきた、というモデルを提唱しています。これを「ウィルソンサイクル」とよびます。

大陸が分裂して海洋が生まれ（現在の紅海など）、やがてその海洋が拡大し（現在の大西洋）、最終的には海溝での沈み込みが始まって海洋が閉じ、再び大陸どうしが衝突して超大陸を形成する（未来の地球）。この壮大なサイクルは、地球が、誕生以来、絶えず活動し続けている「生きている惑星」であることの、何よりの証拠と言えるでしょう。

受験対策まとめ

プレートテクトニクスの成立と展開は、現代地学の根幹だ！

1. プレートテクトニクスが、大陸移動説や海洋底拡大説を統合した、包括的な理論であることを理解する。
2. プレートテクトニクスが、地震・火山の分布や造山運動など、様々な地学現象を統一的に説明できることを、具体例とともに覚える。
3. 「地震波トモグラフィー」の基本原理を説明できるようにする。
   キーワードは「地震波速度は、温度に依存する（冷たい→速い、熱い→遅い）」。
4. 地震波トモグラフィーによって観測された、マントル内の具体的な構造（コールドプルーム、ホットプルーム）の名称と、それが何に対応するのかを理解する。

練習問題

問１：地球の表面が、十数枚の固い岩盤で覆われており、それらの相対的な運動によって様々な地学現象が起きるとする理論を何というか。

問２：地震波の速度が、伝わる物質の温度によって変化する性質を利用して、地球内部の三次元的な温度構造を可視化する技術を何というか。

問３【論述】：地震波トモグラフィーの解析図において、日本海溝の下のマントル深部には、まわりよりも地震波速度が速い領域（高速度域）が観測されている。この高速度域は、どのような物質に対応すると考えられるか。35字程度で説明しなさい。