地学㉒:海洋の構造と海水運動
この記事で探究すること
地球の表面の約7割をおおう、広大な海。その海水は、決して静止しているわけじゃない。風の力や、水温・塩分の違いによって、地球全体をめぐる巨大な流れ「海流」となっているんだ。この単元では、日本の気候に大きな影響をあたえる海流や、地球全体の気候を安定させる、深海の壮大な循環について探究するよ。そして、津波や高潮といった、海水が引き起こす災害のメカニズムも、物理法則から解き明かしていく。
1. 海洋の構造
海洋は、深さによって水温が変化する、特徴的な層構造をなしている。表層から、混合層、水温躍層、深層の3つに分けられる。
- 混合層:海面から数十m。風の力で海水がよく混ざり合い、水温はほぼ一定。
- 水温躍層:混合層の下。深くなるにつれて、水温が急激に低下する層。太陽光が届きにくくなるため。この層は、表層と深層の水の混合を妨げる、安定なバリアの役割を果たす。
- 深層:水温躍層の下。水温は低く、ほぼ一定(約2~4℃)。地球の海洋の大部分を占める。
2. 表層海流と西岸強化
海洋の表面を循環する表層海流は、主に大気の大循環に伴う風(貿易風、偏西風)によって駆動される。地球の自転の影響(コリオリの力)により、北半球では時計回りの巨大な環流を形成する。
コレクトの論理 de 解説:西岸強化
海洋環流は、単純な円運動ではありません。地球が自転しており、コリオリの力が緯度によって異なる(高緯度ほど大きい)ため、環流の西側の流れが、東側の流れに比べて、著しく狭く、速く、強くなる現象が起こります。これを「西岸強化」といいます。
日本の南岸を流れる黒潮や、北米大陸の東岸を流れるメキシコ湾流は、この西岸強化によって形成された、世界的に見ても非常に強力な海流なのです。
3. 深層循環(熱塩循環)
海洋の深層では、風とは異なる、水温と塩分による密度差を駆動力とする、壮大な循環**「熱塩循環」**が存在する。グリーンランド沖や南極大陸周辺の海域で、冷却や結氷によって高密度になった海水が沈み込み、それがポンプとなって、数千年かけて地球全体をめぐる、巨大なコンベヤーベルトのような流れを生み出している。
4. 波浪・潮汐・津波
海水の運動には、海流以外にも、様々な周期の波がある。
- 波浪(表面波):主に風によって引き起こされる、周期が数秒程度の波。
- 潮汐:月と太陽の引力によって、海面が周期的に昇降する現象。周期は約半日または1日。
- 高潮:台風による、気圧の低下(吸い上げ効果)と、暴風(吹き寄せ効果)によって、海面が異常に上昇する現象。
- 津波:海底での地震や地すべりによって、海水全体が大きく持ち上げられることで発生する、周期が数分~数十分の非常に波長の長い波(長波)。
【研究・防災】津波の速度と離岸流
津波は、水深が深いほど、速く伝わる性質を持ちます。その速度 v は、水深を h、重力加速度を g とすると、\( v = \sqrt{gh} \) で表されます。外洋ではジェット機に匹敵する速さで伝わり、水深が浅い海岸に近づくにつれて、速度は遅くなりますが、そのぶん波高は急激に増大します。
また、海岸に打ち寄せた波が、沖に戻ろうとする際に発生する、局所的に強い流れが「離岸流」です。この流れに巻き込まれると、沖へ急速に流され、非常に危険です。海水浴の際は、離岸流が発生しやすい場所を、事前に確認しておくことが重要です。
受験対策まとめ
- 海洋の鉛直構造(混合層、水温躍層、深層)を、温度分布グラフと関連づけて理解する。
- 表層海流の駆動力が「風」であることと、黒潮などが強くなる「西岸強化」のメカニズム(コリオリの力の緯度変化)を理解する。
- 深層循環(熱塩循環)の駆動力が「水温と塩分による密度差」であり、その沈み込み域が高緯度の特定海域であることを覚える。
- 高潮と津波の発生メカニズムの違いを、明確に説明できるようにする。(高潮=気象現象、津波=地殻変動)
- 津波が、水深が深いほど速く伝わる「長波」であることを、数式 \( v = \sqrt{gh} \) と共に覚える。
練習問題
【知識問題】
問1:海洋の鉛直構造で、深くなるにつれて水温が急激に低下する層を何というか。
問2:海洋環流の西側の流れが、東側より狭く、速くなる現象を何というか。
問3:高緯度域で冷却された海水が沈み込むことを主な駆動力とする、地球規模の深層循環を何というか。
【計算・論述問題】
問4:水深4000mの太平洋を伝わる津波の速さは、時速何kmになるか。重力加速度を9.8 m/s² として計算しなさい。
問5:台風が接近すると「高潮」が発生し、甚大な浸水被害を引き起こすことがある。高潮が発生する主なメカニズムを、「気圧」と「風」という2つの語句を用いて、60字程度で説明しなさい。
解答と解説
問1の答え:水温躍層
問2の答え:西岸強化
問3の答え:熱塩循環
問4の答え:約713 km/h
【解説】津波の速さ v は、\( v = \sqrt{gh} \) で求められる。
\( v = \sqrt{9.8 \text{ m/s}^2 \times 4000 \text{ m}} = \sqrt{39200} \approx 198 \text{ m/s} \)
これを時速(km/h)に変換する。
\( 198 \text{ m/s} \times 3600 \text{ s/h} \div 1000 \text{ m/km} \approx 712.8 \text{ km/h} \)
問5の解答例:
台風中心の気圧が著しく低いことによる海水の吸い上げと、陸へ向かう暴風による海水の吹き寄せによって、海面が異常に上昇するため。(62字)