資料編:常用対数と三角関数、指数表記
コレクトによる序文
地学が扱う対象は、桁違いに大きい数値や、膨大なエネルギー、そして、天体の幾何学的な配置です。これらの事象を、人間の感覚で扱えるように変換し、その背後にある法則性を抽出するための数学的ツールが、指数・対数であり、三角関数です。ここでは、その定義と、地学における応用例を解説します。
1. 指数表記:巨大な数値を簡潔に
【定義】ある数 a を n 回掛け合わせることを \( a^n \) と表します。特に、10のべき乗( \( 10^n \) )で数値を表現する方法を、指数表記または科学的記数法とよびます。
【地学での応用】
地球の質量(約 5,972,000,000,000,000,000,000,000 kg)のような巨大な数値を、 \( 5.972 \times 10^{24} \) kg と、極めて簡潔かつ正確に表現できます。これにより、桁数の異なる数値どうしの比較や計算が、飛躍的に容易になります。
2. 常用対数:掛け算を、足し算の世界へ
【定義】ある正の数 X が、10を何乗(p乗)したものであるかを示すとき、その p のことを、X の常用対数といい、\( \log_{10} X \) と表します。すなわち、
【地学での応用】
対数には、「掛け算を足し算に、割り算を引き算に変換する」という、極めて強力な性質があります。
【例題】等級式と対数
見かけの等級 m と絶対等級 M、距離 r [pc] を結ぶ等級式は、\( m - M = 5 \log_{10} r - 5 \) です。これは、 \( m - M = 5 (\log_{10} r - \log_{10} 10) = 5 \log_{10} (r/10) \) と変形できます。
星の明るさ(光度 L)は、距離 r の2乗に反比例するので、見かけの明るさ(フラックス f)は \( f \propto L/r^2 \) と書けます。等級は、このフラックスの対数で定義されているため(ポグソンの式)、等級の差は、明るさの比の対数となり、最終的に距離の対数で表現されるのです。
3. 三角関数:角度から、辺の長さを知る
【定義】直角三角形において、一つの鋭角 \( \theta \) を決めたとき、3つの辺の長さの「比」は、三角形の大きさによらず、角度 \( \theta \) だけで決まります。この「比」を、角度 \( \theta \) の関数として定義したものが、三角関数です。
- 正弦(サイン):\( \sin \theta = (\text{対辺}) / (\text{斜辺}) \)
- 余弦(コサイン):\( \cos \theta = (\text{底辺}) / (\text{斜辺}) \)
- 正接(タンジェント):\( \tan \theta = (\text{対辺}) / (\text{底辺}) \)
コレクトの数理的アプローチ:年周視差と距離
恒星までの距離を求める「年周視差」は、三角関数の応用です。地球と太陽の平均距離(1天文単位, a)を底辺とし、遠方の恒星を頂点とする、細長い二等辺三角形を考えます。このとき、頂角の半分の角度が、年周視差 p となります。
この三角形の半分に注目すると、底辺が a、高さが恒星までの距離 r、角度が p の直角三角形ができます。ここで、タンジェントの定義から、