資料編:地学史
コレクトによる序文
科学の歴史は、人類の思考の進化の歴史です。地学もまた、古代の素朴な自然観から、観測技術の革新と、革命的な理論の登場を経て、現代の複雑な地球システム科学へと発展してきました。ここでは、その偉大な知のバトンリレーの、特に重要なマイルストーンを概観します。
古代~中世:天動説の時代
古代ギリシャのアリストテレスや、2世紀のプトレマイオスらによって、地球を中心に、太陽や惑星が回っているとする「天動説」が、体系化された。これは、日常的な感覚と合致しており、約1500年もの間、西洋の宇宙観を支配した。
一方で、紀元前3世紀には、エラトステネスが、地球が球体であることを前提に、その大きさを驚くべき精度で計算している。
16~17世紀:科学革命と地動説の確立
16世紀、ポーランドのコペルニクスが、太陽を中心に、地球を含む惑星が回っているとする「地動説」を提唱。これは、当時の宗教的な宇宙観と対立するものだった。
17世紀に入り、イタリアのガリレオが、自作の望遠鏡で、木星の衛星や、金星の満ち欠けを発見。これらは、天動説では説明が困難な、地動説を支持する決定的な観測的証拠となった。同時期に、ドイツのケプラーが、惑星の運動に関する3つの法則(ケプラーの法則)を発見。そして、イギリスのニュートンが、万有引力の法則によって、ケプラーの法則を物理学的に証明し、地動説は、揺るぎない科学的理論として確立された。
19世紀~20世紀初頭:近代地質学の黎明と大陸移動説
18世紀末、ハットンが「現在は過去を解く鍵である」とする斉一説を提唱。地層や地形が、現在も働いている、ゆっくりとした自然の作用で形成されたとする考え方は、近代地質学の基礎となった。
20世紀初頭、ドイツの気象学者ウェゲナーが、様々な証拠を基に「大陸移動説」を提唱。しかし、その原動力を説明できなかったため、当時の学界の主流とはならなかった。
20世紀後半~現代:プレートテクトニクス革命と宇宙論の飛躍
第二次世界大戦後、海洋底探査技術が飛躍的に進歩。海底地形(海嶺・海溝)の発見や、海洋底の磁気異常の縞模様の発見などを経て、1960年代に「海洋底拡大説」が提唱される。これが、大陸移動説と統合され、地震・火山・造山運動など、地球科学のあらゆる事象を統一的に説明する、革命的な理論「プレートテクトニクス」が確立した。
同時期、宇宙の観測技術もまた、飛躍的な進歩を遂げる。1929年のハッブルによる、宇宙膨張の発見(ハッブル・ルメートルの法則)。そして、1965年の、ペンジアスとウィルソンによる宇宙背景放射の発見。これらの観測的証拠は、宇宙が約138億年前に、超高温・超高密度の状態から始まったとする「ビッグバン宇宙論」を、標準的なモデルとして確立させた。