地学⑳:大気の大循環
この記事で探究すること
なぜ、赤道近くには熱帯雨林が広がり、緯度30度付近には砂漠が集中しているんだろう? なぜ、日本の上空には、一年中「偏西風」という強い西風が吹いているんだろう? これらの地球規模の気候パターンは、すべて「大気の大循環」という、壮大な空気の流れによって説明できるんだ。この単元では、地球の熱輸送システムである、大気循環の全体像を探究するよ。
1. 大気大循環の3セルモデル
地球の緯度ごとの熱の不均衡と、自転の影響(コリオリの力)によって、大気の循環は、北半球・南半球でそれぞれ3つの巨大な循環細胞(セル)に分かれている。
コレクトの論理 de 解説:3つの循環細胞
- ハドレー循環(低緯度):赤道付近で強く熱せられた空気が上昇し、上空を極向きに移動。緯度30°付近で冷却され、下降する、熱的な直接循環。地表では、下降した空気が赤道へ向かう際に、コリオリの力で東向きに曲げられ、貿易風(北東貿易風)となる。
- 極循環(高緯度):極で冷却された重い空気が下降し、地表を低緯度側へ移動。緯度60°付近で、中緯度の暖かい空気とぶつかり、上昇する、熱的な直接循環。地表では、極偏東風が吹く。
- フェレル循環(中緯度):ハドレー循環と極循環という2つの直接循環の間に位置する、力学的な間接循環。地表では、緯度30°付近から60°付近へ向かう南風が、コリオリの力で西向きに曲げられ、偏西風となる。
2. グローバルな風と気圧・降水量の分布
この3つの循環細胞は、地表に、緯度ごとに帯状の気圧帯と、それに伴う降水量の分布を生み出す。
- 赤道低圧帯(熱帯収束帯):ハドレー循環の活発な上昇気流により、気圧が低く、積乱雲が発達しやすい。年間を通して降水量が多く、世界の熱帯雨林がこの地域に集中する。
- 亜熱帯高圧帯(緯度30°付近):ハドレー循環の下降気流により、気圧が高く、雲ができにくい。年間を通して降水量が極めて少なく、世界の主要な砂漠(サハラ砂漠など)が、この緯度帯に分布する。
- 亜寒帯低圧帯(緯度60°付近):フェレル循環の暖気と、極循環の寒気が衝突し、上昇気流(極前線)が発生する場所。低気圧が発生・発達しやすく、天候は悪いことが多い。
3. 熱帯低気圧と台風
熱帯の海上で、海面水温が約27℃以上になると、大量の水蒸気の供給を受けて、巨大な渦巻き状の低気圧が発生することがある。これを「熱帯低気圧」という。その中でも、最大風速が約17m/s以上に発達したものを、北西太平洋では「台風」とよぶ。
台風は、水蒸気が凝結する際に放出する莫大な「潜熱」をエネルギー源として発達する。コリオリの力がほとんど働かない赤道上では発生せず、主に緯度5°~20°の範囲で発生し、はじめは貿易風に流されて西へ進み、やがて中緯度帯に達すると、偏西風に流されて、進路を北東へと転向することが多い。
【接続・物理】偏西風波動と回転水槽実験
豆知識ですが、中緯度帯を吹く偏西風は、まっすぐ吹いているのではなく、地球を数周するような、大きな蛇行(偏西風波動またはロスビー波)を描いています。この蛇行の気圧の谷の部分で、地上の低気圧は発達し、気圧の尾根の部分では、高気圧が発達します。
この偏西風波動は、物理学の実験室で、回転する水槽を使って、見事に再現することができます。中心に氷を置いた円筒水槽を回転させ、インクを流すと、水はまっすぐ中心へ向かわず、美しい波を描きながら流れます。これは、地球という回転球体上の流体の運動を、本質的にシミュレートしているのです。
受験対策まとめ(地学基礎⑪とほぼ一緒)
大気の大循環は、全球的な視野で天気を理解する鍵だ!
- 3つの循環細胞(ハドレー、フェレル、極)の名称と、緯度帯を覚える。
- それぞれの循環に対応する地表の風(貿易風、偏西風、極偏東風)の名称と、風向を理解する。
特に、日本に影響する「偏西風」が、なぜ西風になるのかを、コリオリの力と結びつけて説明できるようにしておくこと。 - 緯度ごとの気圧帯と、降水量の関係を理解する。
「上昇気流=低圧帯=雨が多い(赤道、緯度60°)」「下降気流=高圧帯=乾燥(緯度30°、極)」という関係は絶対!世界の砂漠がなぜ緯度30°付近に多いのか、という問いは頻出。
練習問題
【知識問題】
問1:赤道付近で上昇し、緯度30度付近で下降する、熱的な大気の循環細胞を何というか。
問2:熱帯の海上で発生した低気圧のうち、北西太平洋で、最大風速が約17m/s以上に達したものを何とよぶか。
【論述問題】
問3:世界の主要な砂漠地帯が、南北の緯度30度付近に集中して分布している。その理由を、「大気の大循環」における空気の鉛直運動と、それに伴う「気圧帯」の名称を用いて、60字程度で説明しなさい。
解答と解説
問1の答え:ハドレー循環
問2の答え:台風
問3の解答例:
大気の大循環において、緯度30度付近は下降気流が発生する亜熱帯高圧帯にあたるため、雲ができにくく、降水量が極めて少ないから。(62字)