地学㉚:様々な銀河と膨張する宇宙
この記事で探究すること
夜空を見上げると、天の川銀河だけでなく、そのはるか彼方に、無数の「銀河」が存在している。それらは、どんな形をしていて、宇宙にどう分布しているんだろう? そして、驚くべきことに、それらの銀河は、すべて、わたしたちから猛スピードで遠ざかっているという…。この単元では、銀河の多様な姿から、宇宙全体の膨張、そして、すべてが始まった「ビッグバン」の証拠まで、現代宇宙論の最前線を探究する、地学の旅の最終章だ!
1. 銀河の分類
宇宙に存在する無数の銀河は、その形によって、主に3つのタイプに分類される(ハッブルの分類)。
- 渦巻銀河:バルジ(中心の膨らみ)と、渦状腕(スパイラルアーム)を持つ、円盤状の銀河。星間物質が豊富で、新しい星が活発に生まれている。我々の銀河系も、この一種(棒渦巻銀河)だ。
- 楕円銀河:渦巻構造を持たない、滑らかな楕円体の銀河。星間物質はほとんどなく、年老いた赤い星が多い。
- 不規則銀河:決まった形を持たない銀河。
また、中心核が、銀河全体よりもはるかに明るく輝く「活動銀河」も存在する。クェーサーなどがその代表で、そのエネルギー源は、中心にある超大質量ブラックホールだと考えられている。
2. 膨張する宇宙とハッブル・ルメートルの法則
遠方の銀河のスペクトルを観測すると、そのほとんどで、吸収線が、本来の位置よりも波長が長い側(赤い側)にずれる「赤方偏移」が見られる。これは、ドップラー効果により、銀河がわたしたちから遠ざかっている(後退している)ことを示す。
さらに、ハッブルは、銀河の後退速度 (v) が、その銀河までの距離 (r) に比例することを発見した。これは、宇宙空間そのものが一様に膨張していることを示す、決定的な証拠だ。
ここで、\(H_0\)はハッブル定数とよばれる比例定数である。
3. ビッグバン宇宙論
宇宙が現在膨張しているのなら、時間を過去にさかのぼれば、宇宙は一点に収縮するはずだ。約138億年前、宇宙は、超高温・超高密度の「点」から、大爆発(ビッグバン)によって始まった。これが、現代宇宙論の標準モデルである。
コレクトの論理 de 解説:ビッグバンの決定的証拠
この理論は、2つの強力な観測的証拠によって支えられています。
- 宇宙背景放射:ビッグバンから約38万年後、宇宙の温度が約3000Kまで下がり、光が初めて宇宙を直進できるようになった(宇宙の晴れ上がり)。この瞬間に放たれた光が、宇宙膨張によって波長が引き伸ばされ、現在、絶対温度約2.7Kのマイクロ波として、全天からほぼ一様に観測されています。
- 軽い元素の存在比:ビッグバン直後の数分間に、宇宙全体で核融合反応が起き、水素(H)とヘリウム(He)が合成されたと予測されます。その理論的な質量比(水素:ヘリウム ≒ 3:1)は、現在の宇宙で観測される元素の存在比と、驚くほど正確に一致します。
コレクトの発展ラボ:宇宙の年齢と宇宙の地平線
ハッブル・ルメートルの法則から、宇宙のおおよその年齢 T は、ハッブル定数 \(H_0\) の逆数(\( T \approx 1/H_0 \))で与えられます。最新の観測値から、宇宙の年齢は約138億年と推定されています。
また、宇宙が誕生してから138億年しか経っていないということは、我々が原理的に観測できる宇宙の果て、すなわち、138億光年より遠くの光は、まだ地球に届いていないことを意味します。この、我々が観測可能な宇宙の限界を「宇宙の地平線」とよびます。
受験対策まとめ
宇宙論は、現代物理学の最前線! 証拠と法則をセットで押さえよう!
- 銀河の3分類(渦巻、楕円、不規則)と、それぞれの特徴(星間物質の有無、星の色など)を対比させて覚える。
- 宇宙が膨張していることの根拠が、「遠い銀河ほど、速く遠ざかっている(赤方偏移が大きい)」という「ハッブル・ルメートルの法則」であることを、完璧に理解する。
- ハッブル・ルメートルの法則( \( v = H_0 r \) )を用いた、距離や後退速度の計算は、絶対にマスターする。
- ビッグバン理論の2つの決定的証拠を、正確に説明できるようにする。
- ① 宇宙背景放射(約2.7K)
- ② 軽い元素の存在比(水素:ヘリウム ≒ 3:1)
- 宇宙の年齢が、ハッブル定数の逆数( \( 1/H_0 \) )で、おおよそ見積もれることを理解しておく。
練習問題
問1:我々の銀河系が属する、中心のバルジと渦状腕を持つ銀河の分類名を答えなさい。
問2:遠方の銀河ほど、速い速度で後退していることを示す法則を何というか。
問3:ビッグバン理論の証拠とされる、宇宙のあらゆる方向から観測される、絶対温度約2.7Kの電磁波を何というか。
問4【計算】:ある銀河の後退速度が 14000 km/s であった。この銀河までの距離は何Mpc(メガパーセク)か。ハッブル定数を 70 km/s/Mpcとして計算しなさい。
問5【論述】:宇宙の初期に、なぜ水素とヘリウム以外の重い元素がほとんど作られなかったのか。その理由を、宇宙の「温度」と「密度」という語句を用いて、60字程度で説明しなさい。
解答と解説
問1の答え:渦巻銀河(または棒渦巻銀河)
問2の答え:ハッブル・ルメートルの法則
問3の答え:宇宙背景放射
問4の答え:200 Mpc
【解説】\( v = H_0 r \) より、\( r = v / H_0 \)。
\( r = 14000 \text{ km/s} \div 70 \text{ km/s/Mpc} = 200 \text{ Mpc} \)
問5の解答例:
ビッグバン後、宇宙の膨張とともに、温度と密度が急激に低下し、原子核が融合反応を起こせる時間が、ごくわずかだったため。(58字)