地学⑥:地震と地殻変動
この記事で探究すること
日本に住むわたしたちにとって、最も身近で、最も恐ろしい自然現象、地震。その一つ一つの揺れの裏には、地球規模の壮大なプレート運動が隠されているんだ。この単元では、地震がどこで、どのようにして発生するのか、そのメカニズムを「発震機構」という専門的な手法で解析する。そして、プレート境界で起きる巨大地震から、内陸の活断層地震まで、多様な地震の姿と、それが引き起こす大地の変動について、深く探究していくよ。
1. 地震の分布と深発地震面
世界の震源分布は、プレートの境界と見事に一致する。特に、海溝などの沈み込み帯では、震源が、大陸側へ向かうにつれて、次第に深くなっていく、帯状の分布を示す。この震源が分布する面を「深発地震面(ワダチ・ベニオフ帯)」といい、これが、冷たくて固い海洋プレートが、マントルの中へ沈み込んでいる直接的な証拠となる。
2. 震源の決定
ある地震の震源の位置は、最低3つの観測点のデータがあれば、決定することができる。
- 各観測点で、P波とS波の到着時刻の差(初期微動継続時間)を測定する。
- P波とS波の速度差は既知であるため、初期微動継続時間から、各観測点から震源までの直線距離(震源距離)を計算する。
- 各観測点を中心に、震源距離を半径とする球面を描く。3つの球面が交わる一点が、地下の震源となる。その真上の地表点が震央だ。
3. 発震機構と初動分布
地震は、断層がずれることで発生する。その「断層が、どの向きに、どのようにずれたのか」というメカニズムを「発震機構」という。これを、各地の地震計で観測された、P波の最初の揺れの向き(初動)の分布から推定することができる。
コレクトの論理 de 解説:P波初動分布の原理
断層運動を、岩盤がくいちがう「四象限」モデルで考えます。断層が動くことで、ある2つの象限では「押し」の力が働き、そこに向かうP波の初動は「押し(上向きの揺れ)」となります。一方、残りの2つの象限では「引き」の力が働き、そこに向かうP波の初動は「引き(下向きの揺れ)」となります。
この「押し」と「引き」の初動分布を、震源を中心とした球面にプロットすると、必ず2本の直交する線(節面)で、4つの領域に分けることができます。この節面のうち、片方が実際の「断層面」を、もう片方が断層の動きの方向を示す「補助面」を表します。これにより、観測された初動分布から、その地震が逆断層、正断層、横ずれ断層のいずれであるかを、客観的に決定できるのです。
4. プレート境界地震とプレート内地震
地震は、発生場所によって、大きく2つに分類される。
- プレート境界地震:プレートとプレートの境界で発生する地震。日本で発生する巨大地震の多くは、太平洋プレートやフィリピン海プレートが、陸側のプレートの下に沈み込む際に発生する、逆断層型の海溝型地震である。(例:南海トラフ地震)
- プレート内地震:プレートの内部で発生する地震。大陸プレートの内部に存在する活断層がずれることで発生する「内陸型地震(直下型地震)」や、沈み込む海洋プレートの内部が破壊されることで発生する「スラブ内地震」などがある。
【研究・防災】アスペリティと長周期地震動
豆知識ですが、プレート境界は、均一に固着しているわけではありません。特に固く、普段は動かずにひずみを溜め込む部分(アスペリティ)と、そのまわりで、地震を起こさずにゆっくりと滑っている部分(スロースリップ)があると考えられています。巨大地震は、このアスペリティが一気に破壊されることで発生します。
また、巨大地震が発生すると、周期が数秒~数十秒という、非常にゆっくりとした大きな揺れ「長周期地震動」が発生することがあります。この揺れは、高層ビルや、石油タンクなどを、共振させて大きく揺らす性質があり、震源から遠く離れた大都市でも、大きな被害をもたらす危険性が指摘されています。
受験対策まとめ
地震のメカニズムは、作図と論述の両面から問われる!
- 「深発地震面」が、プレートが沈み込んでいる証拠であることを、図と関連づけて理解する。
- 震源決定の原理(3点観測)を、作図で説明できるようにする。
- P波初動分布の「四象限パターン」から、発震機構(特に断層タイプ)を決定できる、という原理を理解する。
「押し」と「引き」の分布図を見て、逆断層か正断層かを判断する問題は頻出。 - 「プレート境界地震」と「プレート内地震」を、具体例(南海トラフ、活断層)とともに区別する。
練習問題
【知識・作図問題】
問1:海溝から大陸側へ向かうにつれて、震源が深くなっていく帯状の領域を何というか。
問2:ある地震のP波初動分布が、観測点を中心として、北東と南西の象限で「押し」、北西と南東の象限で「引き」となった。この地震を引き起こした圧縮力の主軸は、どの方向だと考えられるか。
【論述問題】
問3:日本で発生する、マグニチュード8を超えるような巨大地震の多くは、「プレート境界地震」に分類される。このような巨大地震が発生するメカニズムを、「沈み込み帯」「ひずみ」「逆断層」という語句をすべて用いて、75字程度で説明しなさい。
解答と解説
問1の答え:深発地震面(和達・ベニオフ帯)
問2の答え:北東-南西方向
【解説】P波初動で「押し」が観測される領域は、断層運動によって圧縮された領域を示す。したがって、その方向が、圧縮力の主軸の方向となる。
問3の解答例:
海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む沈み込み帯で、プレート間の固着により蓄積されたひずみが限界に達し、逆断層的な運動として一気に解放されるため。(74字)