地学①:固体地球としての地球の概観①
~重力から探る地球の内側~
この記事で探究すること
地球が、赤道方向に少しふくらんだ「回転楕円体」であることは、「地学基礎」で学んだね。でも、もっと精密に見ると、地球の形は、地下の物質の重さの違いによって、わずかにデコボコしているんだ。この単元では、「重力」という、目に見えない力を精密に測定することで、地球の真の形「ジオイド」や、地下に隠された構造を、いかにして暴き出すのか、その物理学的な探査のプロセスを探究していくよ。
1. 地球の形:ジオイドと地球楕円体
地球の形状を表す概念には、以下の2つがある。
- 地球楕円体:地球の形状に最も近い、数学的に滑らかな回転楕円体。測量や、GPSなどの位置情報の基準となっている。
- ジオイド:平均海水面を、仮に陸地の下まで延長したと仮定したときにできる面。これは、重力ポテンシャルが等しい面(等ポテンシャル面)であり、「真の地球の形」ともいえる。地下の物質の密度分布が不均一であるため、ジオイドは地球楕円体に対して、最大で100m程度の凹凸(ジオイドの起伏)を持つ。
2. 地球の重力と重力測定
地表の物体にはたらく重力は、地球の中心に向かう**万有引力**と、地球の自転による**遠心力**の合力である。遠心力は、赤道で最大、極でゼロとなるため、重力の大きさは、高緯度ほど大きく、低緯度ほど小さくなる。
コレクトの数理的アプローチ:標準重力
地球内部の密度が一様な回転楕円体であると仮定した場合、緯度 \( \phi \) における理論的な重力の値 \( \gamma_0 \) を**標準重力**といい、以下の式で近似されます。
3. 重力異常と重力補正
地表で実際に測定された重力(実測重力)と、その地点の標準重力との差を「重力異常」という。しかし、この差には、地下の密度構造だけでなく、測定点の「標高」や「地形」の影響が含まれてしまっている。そこで、これらの影響を取り除き、地下構造だけを純粋に反映した重力異常を求めるために、いくつかの「補正」を行う。
コレクトの論理 de 解説:3つの重力補正
- フリーエア補正:測定点が、基準となるジオイド面よりも標高 h [m] だけ高い位置にあることによる、万有引力の減少分を補正する。測定点をジオイド面の高さまで引き下ろすイメージ。補正量は、\( \Delta g_F = +0.3086h \) [mGal]。
- ブーゲー補正:フリーエア補正では無視した、測定点とジオイド面の間の、厚さ h [m]、密度 ρ [g/cm³] の岩盤(ブーゲー円盤)が及ぼす引力を、取り除くための補正。補正量は、\( \Delta g_B = -0.0419\rho h \) [mGal]。
- 地形補正:ブーゲー補正では、測定点のまわりの地形を平坦だと仮定したが、実際には山や谷がある。この凹凸の影響を取り除く補正。補正量は、常に正となる。
これらの補正を行った後の重力異常を**「ブーゲー異常」**とよび、これが地下の密度構造を最もよく反映していると考えられる。
ブーゲー異常 = (実測重力 - 標準重力) + フリーエア補正 + ブーゲー補正 + 地形補正
【例題】重力異常の計算
ある山の山頂(標高2000m)で重力を測定した。この地点の標準重力は9.79000 m/s²、実測重力は9.78212 m/s² であった。地殻の密度を2.7 g/cm³とし、地形補正は無視できるものとして、ブーゲー異常を求めなさい。(1 mGal = 10⁻⁵ m/s²)
【解答プロセス】
① 各値をmGalに変換する。
標準重力 = 979000 mGal, 実測重力 = 978212 mGal
② フリーエア補正量を計算する。
\( \Delta g_F = 0.3086 \times 2000 = 617.2 \) [mGal]
③ ブーゲー補正量を計算する。
\( \Delta g_B = -0.0419 \times 2.7 \times 2000 = -226.26 \) [mGal]
④ ブーゲー異常を計算する。
ブーゲー異常 = (978212 - 979000) + 617.2 + (-226.26) = -788 + 617.2 - 226.26 = -397.06 [mGal]
答え:約 -397 mGal
受験対策まとめ
重力は、計算問題と論述問題の両方で問われる可能性のある重要テーマだ!
- ジオイドと地球楕円体の違いを説明できるようにする。
ジオイドは「重力」、楕円体は「数学的形状」というキーワードで区別しよう。 - 重力補正の「目的」と「物理的意味」を理解する。
フリーエア補正は「高さの影響」、ブーゲー補正は「測定点と基準面の間の岩盤の引力」を補正していることを、図でイメージできるように。 - ブーゲー異常の正負が、地下の密度構造とどう対応するかを理解する。
「ブーゲー異常が正=地下に高密度物質」「ブーゲー異常が負=地下に低密度物質」という関係は絶対!
練習問題
【知識・計算問題】
問1:平均海水面を仮想的に陸地の下まで延長した、重力ポテンシャルが等しい面を何というか。
問2:標高1000mの地点における、フリーエア補正量と、地殻密度を2.7 g/cm³とした場合のブーゲー補正量を、それぞれ求めなさい。
【論述問題】
問3:巨大な山脈の上では、その巨大な質量にもかかわらず、ブーゲー異常が大きな負の値を示すことが多い。この事実は、山脈の地下がどのような構造になっていることを示唆しているか。「アイソスタシー」という語句を用いて、60字程度で説明しなさい。
解答と解説
問1の答え:ジオイド
問2の答え:
フリーエア補正量: \( 0.3086 \times 1000 = 308.6 \) [mGal]
ブーゲー補正量: \( -0.0419 \times 2.7 \times 1000 \approx -113.1 \) [mGal]
問3の解答例:
アイソスタシーが成立しており、山脈の巨大な質量を支えるため、地下深くまで密度の小さい地殻の「根」が張り出していること。(58字)