地学⑱:地球のエネルギー収支
この記事で探究すること
地球の平均気温は、約15℃で、ほぼ一定に保たれている。これは、地球が太陽から受けとるエネルギーと、宇宙へ放出するエネルギーが、見事なバランスの上になりたっているからだ。この単元では、このエネルギーの出入り「熱収支」を、物理法則と数式を用いて、定量的に解き明かす。地球の気温を決定する、壮大な物理モデルに挑戦しよう!
1. 太陽放射と地球放射
すべての物体は、その温度に応じた電磁波を放出している(プランクの法則)。
- 太陽放射:太陽の表面温度は約6000Kと非常に高温なため、放出するエネルギーが最も強い電磁波の波長は、可視光線の領域にある。
- 地球放射:地球の表面温度は約288K(15℃)と比較的低温なため、放出するエネルギーが最も強い電磁波の波長は、赤外線の領域にある。
地球が受け取るエネルギーは、ほぼすべてが太陽放射に由来する。
2. 放射平衡温度と温室効果
まず、大気が存在しない、単純なモデルで地球の温度を考えてみよう。このとき、地球が吸収する太陽放射エネルギーと、地球自身が放出する地球放射エネルギーがつり合っている状態(放射平衡)にあると仮定する。
コレクトの数理的アプローチ:放射平衡温度の算出
太陽定数を \(S_0\) [W/m²]、地球の半径を R [m]、地球のアルベド(反射率)を A とすると、地球が単位時間に吸収する太陽放射エネルギーは、断面積 \( \pi R^2 \) に入射するエネルギーから、反射される分を引いたものなので、\( S_0 \pi R^2 (1-A) \) となります。
一方、地球の表面温度を T [K]、シュテファン・ボルツマン定数を \( \sigma \) とすると、地球が単位時間に放出する地球放射エネルギーは、表面積 \( 4\pi R^2 \) から放出されるので、\( \sigma T^4 \cdot 4\pi R^2 \) となります。
この2つがつり合うので、
この計算結果は、実際の地球の平均気温(約15℃ = 288K)よりも、33℃も低い。この差を生み出しているのが、大気による「温室効果」だ。大気中の水蒸気や二酸化炭素といった温室効果ガスが、地表から放出される地球放射(赤外線)を吸収し、その一部を再び地表へ向かって放射することで、地表を温めているんだ。
3. 緯度別の熱収支と熱輸送
地球全体ではエネルギー収支はつり合っているが、緯度別に見ると、大きな不均衡が生じている。
- 低緯度地域(約38°以内):太陽放射の吸収量が、地球放射の放出量を上回り、エネルギーが過剰となっている。
- 高緯度地域(約38°以上):地球放射の放出量が、太陽放射の吸収量を上回り、エネルギーが不足している。
このエネルギーの不均衡を解消するため、低緯度で余った熱を、高緯度へと運ぶ大規模な輸送システムが存在する。それが、大気の大循環と海洋循環(海流)だ。この熱輸送によって、地球の気候は、比較的安定に保たれている。
受験対策まとめ
エネルギー収支は、計算とグラフ読解が全てだ!
- 太陽放射は「可視光線」、地球放射は「赤外線」が中心であることを覚える。
- 放射平衡温度の計算式の導出過程を理解する。
「地球が受け取るエネルギー(円盤)」と「地球が出すエネルギー(球体)」のつり合い、という基本構造を押さえること。 - 温室効果のメカニズムを、物理的に説明できるようにする。
「温室効果ガスが、地球放射(赤外線)を吸収・再放射する」ことが核心。 - 緯度別熱収支のグラフを読み解けるようにする。
低緯度でエネルギー過剰、高緯度でエネルギー不足であり、その差を「大気と海洋」が「熱輸送」している、という関係性を完璧に理解しよう。
練習問題
【計算問題】
問1:もし、地球のアルベドが現在の0.3から、0.4に増加した場合、地球の放射平衡温度は、高くなるか、低くなるか。数式を示さずに、理由を簡潔に説明しなさい。
問2:低緯度と高緯度の熱収支の不均衡を解消している、熱の輸送の担い手を2つ答えなさい。
【論述問題】
問3:金星は、地球よりも太陽に近いが、そのアルベドは地球よりも大きい(約0.8)。しかし、金星の表面温度は約460℃と、地球よりはるかに高温である。この事実を説明するためには、どのようなメカニズムを考慮する必要があるか。60字程度で説明しなさい。
解答と解説
問1の答え:
答え:低くなる。
理由:アルベドの増加は、太陽放射を反射する割合が増えることを意味し、地球が吸収するエネルギー量が減少するため。
問2の答え:大気(大気の大循環)と、海洋(海流)
問3の解答例:
金星の主成分である二酸化炭素が、極めて強力な温室効果をもたらし、太陽からの熱を大気中に閉じ込めているため。(53字)