地学㉓:気候変動と物質循環、人間の活動
この記事で探究すること
地球の気候は、自然の大きなリズム(テレコネクション)でゆらぎながら、絶妙なバランスを保ってきた。そして、そのバランスの根底には、水や二酸化炭素といった物質が、地球全体をめぐる壮大な「物質循環」があるんだ。この単元では、エルニーニョ現象などの自然変動から、地球温暖化やオゾン層破壊といった人間活動が引き起こす問題まで、地球という巨大なシステムが、今、どのように変化しているのかを探究するよ。
1. 気候の自然変動:テレコネクション
地球の気候には、ある地域の気象が、遠く離れた地域の気象と連動して変動する「テレコネクション」とよばれるパターンが存在する。その最も代表的なものが、太平洋赤道域で数年ごとに発生するENSO(エルニーニョ・南方振動)だ。
コレクトの論理 de 解説:ENSOのメカニズム
- 平常時:貿易風が、太平洋西部の暖かい海水を西へ吹き寄せ、東部では冷たい深層水が湧き上がる。
- エルニーニョ現象:何らかの原因で貿易風が弱まると、西部に溜まっていた暖かい海水が東部へと広がる。これにより、太平洋東部の海水温が平年より高くなる。
- ラニーニャ現象:逆に、貿易風が強まると、東部の冷たい湧昇が強まり、海水温が平年より低くなる。
この海水温の変化は、大気の流れを大きく変え、世界中に異常気象(日本の冷夏・暖冬、干ばつ、豪雨など)をもたらします。
2. 地球規模の物質循環
地球上の物質は、大気・海洋・陸地・生物圏の間を、形を変えながら循環している。
- 水の循環:海洋から蒸発した水蒸気が、大気によって運ばれ、雲となり、雨や雪として地表に降り、川となって再び海へ戻る、という壮大なサイクル。大気中の水蒸気が、すべて入れ替わる時間(滞留時間)は、約10日と非常に短い。
- 二酸化炭素の循環:二酸化炭素は、大気と海洋の間で交換されるほか、生物の呼吸や光合成、化石燃料の燃焼、火山活動などによって、様々な形で循環している。海洋は、大気中の二酸化炭素を溶かしこむ、巨大な貯蔵庫(リザーバー)の役割を果たしている。
3. 人間活動による環境への影響
産業革命以降の人間活動の拡大は、地球の物質循環のバランスを大きく崩し、様々な環境問題を引き起こしている。
- 地球温暖化:化石燃料の燃焼による、二酸化炭素などの温室効果ガスの増加が原因。
- オゾン層の破壊:フロンガスが大気中に放出され、成層圏のオゾンを破壊する。
- 酸性雨:工場や自動車から排出される硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)が、大気中で硫酸や硝酸に変化し、雨に溶け込んで降る現象。
- エーロゾル:大気中に浮かぶ、微小な液体や固体の粒子。人為起源のもの(硫酸塩エアロゾルなど)は、太陽光を反射して地球を冷却する効果(日傘効果)を持つ一方、健康への悪影響も懸念される。
- 都市気候(ヒートアイランド現象):都市部が、郊外に比べて異常な高温になる現象。人工排熱、アスファルトなどによる日射吸収、緑地の減少などが複合的な原因。
受験対策まとめ
- エルニーニョ現象とラニーニャ現象のメカニズムを、貿易風の強弱と、太平洋赤道域の海水温の変化と結びつけて説明できるようにする。
- 水の循環と、二酸化炭素の循環の、それぞれの主なプロセスと、貯蔵庫(リザーバー)を理解する。
- 地球温暖化、オゾン層破壊、酸性雨の、それぞれの「原因物質」を正確に覚える。
(温暖化→CO₂、オゾン層→フロン、酸性雨→SOx, NOx) - エーロゾルが持つ、気候への冷却効果(日傘効果)を、温室効果と対比させて理解する。
練習問題
【知識問題】
問1:太平洋赤道域で、貿易風が平常時より弱まり、東部の海水温が平年より高くなる現象を何というか。
問2:工場などから排出される硫黄酸化物などが原因で、雨や雪の酸性が強くなる環境問題を何というか。
【論述問題】
問3:二酸化炭素の循環において、海洋は「巨大な貯蔵庫」としての役割を持つ。もし、何らかの理由で海洋の表層水温が全球的に上昇した場合、大気中の二酸化炭素濃度は、長期的にはどのように変化すると考えられるか。その理由を、気体の溶解度の性質と関連づけて、60字程度で説明しなさい。
解答と解説
問1の答え:エルニーニョ現象
問2の答え:酸性雨
問3の解答例:
大気中の二酸化炭素濃度は上昇する。気体の溶解度は、一般に水温が高いほど小さくなり、海洋が二酸化炭素を吸収する能力が低下するため。(64字)